加藤シゲアキ、愛と香りを語る。に触発された妄想のはなし

美的5月号の、初ポエムを特別寄稿!加藤シゲアキmeets ミスディオール 加藤シゲアキが語る「愛と香り」に触発された文章です。

 

シゲのポエムがくすぐったくて美しくて。

すぐ触発されちゃうもんね!

幸せなことです。

妄想のお裾分けよかったら。

 

 

 

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木陰のコーナーに作られたテラス席はここちよくて話が弾む。

「私、思ったんだけど。若い人って未来があっていいなって言うでしょ。でも、未来も今も過去も割合が違うだけで総量は一緒だよね、人がみんな80歳まで生きるとしたら。」

「そう、だね。」

「未来があっていいなっていうのは、未来はまだ決まってなくてそれを自分が作れるからだよーってことだよね。」

「そうね。」

「でも未来が少なくなるかわりに、過去が老人にはあるわけでしょ。」

「……」

「だから一概に若いからいいな~っていうのはどうなんだろう?未来の評価は決まってないから評価の不確定さに可能性があるよってことなのかなって、、、、いう事をうまくまとめてほしい。」

「なにその投げかけ」

運動会の玉入れかよ。すごい適当にボールたくさん投げられたな、と彼は笑った。

その笑顔と例え方が好きだからボール適当に投げちゃうんだよ、と思う。

 

「今もこの瞬間に過去に変わっていくわけでしょ。どんどん。」

「うーん、、、」軽く眉間に皺を寄せる。そのあとちゃんと答えてくれることも私は知ってる。

 

「一番大事なのは今、じゃない?今の現実をしっかり見ないと未来に繋がっていかないんだから。だからその点は子どもも大人も一緒、と思うけど。」

「なるほど、今、ね」

「旅先で話すはなし?それ」そういって鼻で笑うけど、その顔は幸せそうだった。

「人間は家から300キロ離れると思考がいつもと違ってきていいんだって」

それはあるな~と言って彼はグラスを手に取り炭酸水を飲んだ。

 

南仏の初夏の日差しと風が彼の瞳を輝かす。

東京からフランスの距離は、9千キロだって。300キロって愛知ぐらい。とスマホを見ながら言ってから、いや、今に集中しようと思い直す。

私は今ここで彼と向かい合って座ってて、天気が良くて、空気がおいしい。カフェのテラスのテーブルと籐の椅子。コーヒーと花の香り。そよ風。思わずにんまりすると、彼が「ん?」とこちらを見た。

「なんでもない。幸せだな~って思って、今。」

「そっか。俺も。」

彼の顔を見ると、彼もにやにやしてて思わず吹き出してしまった。

「にやにやすんなって。」と言いながらにやにやしてる彼がおかしくって、

「ごめん、なんか笑いのスイッチ入っちゃった」と笑いながら言うと、

「どんなスイッチングなんだよ」と楽しそうにツッコまれた。    

「だってにやにやしてるだもん。にやにやするなって言いながらにやにやしてるからにやにやしちゃうんだよ~」

にやにやがゲシュ、ゲシュ、、、言葉を思い出せないでいると

ゲシュタルト崩壊。よく知らないなら使わなくていいんだよ」と彼が言って二人で笑った。

 

店を出て旧市街の石畳の小径を歩く。

南フランスのカラッとした空気と広い青空に心が浮き立つ。お土産屋さんの前を通ったときに、寄ってく?ときいたら、プロヴァンス行ってプロヴァンス柄のなんか買うのもな~、と彼らしい返事が返ってきた。

 

「あ、香水売ってる。はいっていい?」

「俺も見たい」

地元のブランドだろうか。いかにも昔は薬局でしたというような質実なつくりの店構えがそれっぽい。ボンジュールと挨拶をする彼は、世界基準で見てもカッコいいな。彼を見た店のマダムの笑顔を見ながら思う。

おすすめされた青臭い強い香りは母のつけてた香水を思い出して、「これうちの母親の香水の香りがする」と言って彼に嗅がせると「あー」と別に興味なさそうだった。大人ってなんでこんなくさいものつけるんだろうと、不思議に思ってたのにな。

 

いつもはメンズっぽいベルガモットやペッパーが好みだけど、今の気分はフローラルだなと思って、バラの絵が添えられた香りを試す。

上品で優しくて清潔な花の香り。

どことなく懐かしさもある。

 

「旅行の時はそこで香水買ってつけることにしてるんだ」と店を出て彼に言うと、そういうのいいね。と言ってくれた。香りと記憶って直結してるよね。この香りを嗅ぐとあの光景が浮かぶとか、俺もある。という彼も昔の恋と香水が結びついたりするのかなとふと思うけど、別に心は痛まない。

 

 

バラのそばで蝶々がキラキラと舞っていた。

「あ、センティフォリアローズ」花の名前に詳しい彼はそう言って、茎が折れたばかりの花を拾った。そして私のワンピースのボタンホールにそれを挿した。

「よく似合うよ。落ちてたのでごめんだけど。」

優しく微笑む彼の顔が見れないほど、嬉しくて照れくさかった。

 

この光景と香りを覚えておこう。

今はすぐに過去になってしまうけど。

覚えておけばいつでも取り出せる。

 

博学な彼に「なんで恋って終わってしまうんだろう」って聞いたらちょっとビックリするかもしれないけど答えてくれるんだろう。でもなんでそんなこときく?と、傷付いたような彼の顔が想像ついちゃってその問いは心にしまう。

恋が終わることを知ってるのに恋をしてしまう私はいつの間にか大人になって、恋人と南フランスまできて自分のための香水を買ってる。

 

右手首につけた新しい香水を深く吸い込む。愛は確かにここに存在してる。

「今が過去になってく感じ、する?」

彼はそう言って、私の右手をとった。

「ほら、どんどん過去になっていくよ?」といたずらっぽく口角をあげる彼はやっぱり楽しそうで、この人ってすごく可愛いのかもしれない、と思う。

 

時間がさらさらと粉砂糖のように積もっていき、香りが満ちる。

 

俺は美術館行く未来がいいな!と油絵で有名な画家の名前をあげる彼の腕に自分の腕をからませた。

「いこ!」

彼の左手首からも良い香りがして、結局買ったんだ?ときいたら店の人がペアで付けるといいってすごい推してくるから。と彼は言った。

「お揃いの香水ってあれだけど、まぁ~いっか!って」

その「まぁ~いっか!」の浮かれた感じが面白くて可愛くてまたにやにやしてしまった。

過去になった今はずっと記憶に残るもんね。そう私が言うと、彼は「その話引っ張るね」と笑った。

 

 

 

 

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おしまい!

 

いいですね、恋って。

ミスディオール手首につけてクンクンしながらニヤニヤしてます♡