舞台『粛々と運針』観に行ってきました。(ネタバレ無し)

初日に観てきた人の口が重くて、若干の不安と期待を胸に向かった渋谷パルコ劇場。いろんな方向から光が当たって多角面でキラキラしてるような舞台だった。ネタバレ無しの感想。

 

始まり方から、あっこの舞台好き。と思わせる始まり方で心掴まれた。とても舞台的な、舞台じゃないと味わえない演出で、「舞台を見ている」という満足感が非常にあった。舞台というのは、映画より熱量が高く、コンサートより親密で、なんというか「いま、わたし、生きてる」と自分の生をじっと確認するような、そんな感じ。たくさんの舞台を見てるわけじゃないんだけど、これはハマる世界だなという気がする。時折、パッと明るくなる照明が舞台にいる人を自然光のように照らし、舞台の上の息遣いのようなものを感じる。

 

謎の自意識で「アイドル目当て」と思われたくない私は(まぁそうなんだけど)、予習も兼ねて先月、ウォーリー木下さん原案・演出の舞台『僕はまだ死んでない』を観に行った。ベッドに横たわる、意識はあるのに体は動かせずほとんど意思疎通ができない主人公と、彼の周りの人々で展開する人間模様。元々はコロナによる無観客舞台のため「VR演劇」として作られたもので、VRだと観客は主人公の目線で舞台を味わえる、というものらしい。今回の『粛々と運針』と同様「死、尊厳死」に関する題材で、コロナ禍の不自由さがそういうアイデアを生んだのだろうけど、もはやコロナも3年目なのでこの不自由さがスタンダードになっていきそうなのも、ぼんやりとした不安感がある。

 

ソーシャルディスタンスと書かれたテーブルの上に特別ドリンク「サクラサンライズ」を置き、ひっさびさに会った音楽好きの友だちに今のライブ会場の雰囲気などを尋ねる。そこに十代の可愛らしいシゲ担さんがやってきて、カイコタポンセン(NEWSのツアーグッズ)を鞄の中からのぞかせた。「小5の妹に、この子たちも連れていってパパと一緒にいるところ写真に撮って送ってって頼まれたのですごく恥ずかしいですけど写真撮ります」と、可愛すぎることを言う。可愛すぎたので今日の朝夫に「で、そのぬいぐるみは妹さんが一緒に割り勘しよってメルカリで落札してくれたんだって。」と話したら物凄く涙もろい夫は涙をぬぐっていた。「あ、シゲのことパパっていうのは、そのぬいぐるみのキャラクターを考案したのがシゲってことで、ぬいぐるみにとってのパパであって、妹さんがシゲのことパパって呼んでるわけじゃないからね。」と付け足す。

 

STORYツアーに出てくる物語、EPCOTIAツアーでの宇宙人、シゲって意外と子どもっぽい感性があると思う。布団の中で本を読んでワクワクしてる小学生みが。先週のシゲ部の「愛って言葉を~」ってやつも、シゲの良い意味での子どもっぽさ、一生中学二年生、みたいなところ、私はとても好きで、多分みんな普段は大人っぽいシゲのなかのそういう部分が好きなんじゃないかと思ってる。

 

で、この舞台のシゲの役「はじめ」は40代のフリーターという、どこを見てオファーしたんだろ?っていうような役で、でも蓋を開けるとシゲの内面にある"永遠の若さ"みたいなものがハマっていて、アイドルオタクっぽい言い方すると「萌えた」

去年の舞台『モダンボーイズ』はスター誕生って感じだったけど、この粛々と運針はそれよりまた一段上がって、より深く"舞台"だった。エンタメ的な内容じゃないのにきちんとエンタメに仕上がってて、舞台の面白さ、奥行きの深さを知った。

私が観た、2017年の『グリーンマイル』2021年の『モダンボーイズ』そして今回と、どんどん良くなっていってる。シゲ、舞台に向いてる。

 

「舞台を味わっている」という空気が客席に漂っていた。シゲ一人が目立つわけでもなく全員が主役で、舞台全体の調和が取れていた。音楽も相まって、グルーブ感とでもいうのか、大きなうねりが舞台に生まれて(もしくはこれから生まれていくような感じ、私が入ったのは初日から3日目だったので)、そのうねりに俳優も観客も身を任せるみたいなところが舞台の面白さなのかなぁと今思った。そこにバチッとハマったとき、何とも言えない快感があるんだろうな。

 

誰に感情移入するかで舞台の感じ方かなり変わりそうだと思った。どの登場人物の気持ちも少しづつ私も共有してるなって、今思うと観客席にいる私もあの糸に絡められて粛々と運針していたのかなって気持ち。どう思った?って観た人にきいて回りたくなっちゃう。意見を交換し合いたくなる舞台。

 

舞台のなかで、一触即発って感じの人間関係が、ふと気を抜いて緊張が緩む場面がリアルで、人間って愛おしいなって思えた。シゲに関して言えば、常時緊張が強いられるようなスケジュールとキャリアのなかで、このお芝居は「楽しんでる」ことが伝わってくる肩の力の抜けた、ふぅっと息を吐くような印象を持った。役を演じてるのだから自然体ではないのだろうけど、「はじめ」の甘えん坊で人たらしで一生子どもみたいな姿を大人になったシゲが演じるの、ものすごくなんというか「味」があった気がする。繋がってくんじゃないかなこれも。とにかくビジュアル最高でした。

 

舞台にいる人全員に拍手を送りたいと思って、カーテンコールで目の前にいた前野朋哉さんに向かって拍手をした。とても良い笑顔をしてらして、こっちまで嬉しくなり、ファンサみがあった。ジャニーズのコンサートに行き、ジャニーズJr.にファンサを貰ってそのままJr.におちる人の気持ちが分かった気がした。

 

会場で会った初対面のファンのかたにどういうきっかけでNEWSを好きになったのかと聞いた。そしたら、5年前くらいに道を歩いていたら流れていた光GENJIの曲を耳にしたことから少年隊のニッキにハマり過去のVTRを取り寄せビデオデッキで再生してさすがにもう全て再生したなっていう2年ほど前、今まで全く気にしたことなかったのに突然、ヒガシの後ろで踊る少年のダンスに目が離れなくなって、それが中学生の時のまっすーだったんですよね~。そこから。というストーリーで「ええ!そんな出会いが!」と目がらんらんと光った私はアイドルとの馴れ初めを聞くのがほんとに好きで。それって、『粛々と運針』みたいに、私たちを織りなす「糸」を感じてるんだろうなと思った。ほんとうならかかわることのない人間たちの糸。時間の針の中で。

 

俳優さんの演じる人物の息遣いや思考に、観客の私も合わせていく、そんな感じで「呼吸」を感じた。これが舞台ってことなのかな。良かったな~とっても。